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Little Night Happenings

-小さなよるのできごと-

静かな夜のブレンダムの港。ボコは機関庫のベッドに入りながら本を読んでいる。
すると、トントンと小さくノックをしてくる音が聞こえてきた。

「ん…ビルかい?それともベン?」

すると、ガチャっとドアを開けて部屋に入ってきたのは、小さな黄色い双子のビルの弟、ベンだった。

「ベンだよ、ボコ……」

ビルとベンは、普段は採石場で仕事をしているが、今回はボコの助っ人として、港にある彼の家で一晩泊めてもらっていたのだ。
ベンは寝ぼけ眼を擦りながら答えると、ボコは読み途中の本を閉じた。

「おやおや、どうしたんだい?こんな時間に起きてきて。ベンらしくないな」
「う〜ん…怖い夢を見たんだ…」
「へぇ、それは興味深いね」
「…隣に座ってもいい?」
「どうぞ」
 
ベンはボコの隣にそっと寄り掛かるように座る。
 
「でも、ボコに言ったって笑われる気がするんだけど…」
「笑わないさ。実際これまで笑った覚えはあるかい?」

ベンはボコを疑って一生懸命に思い出そうとするが、思い出せず眠気で力なく首を横に小さく振る。
 
「だろ?じゃあ是非とも聞かせておくれよ」
「うん。…あのね…ボコがいなくなっちゃう夢を見たんだ…それもこの島から送り返されて、スクラップにされちゃうの…」
「なんだって?」

ボコは思わずギョッとしたが、ベンの話を真面目に聞き続けた。

「ビルも僕も、トップハム・ハット卿にやめて欲しいって必死に頼んだの…

でも、僕たちの声が届かなくてダメだった。悲しくてそこで目が覚めたんだ」

しかしボコは我慢出来ずに結局吹き出してしまった。

「ふふ…、アハハ!」
「ほらやっぱり笑ったじゃないか!」
「ごめん、ついおかしくって…」
「こっちは真剣なのにっ!!」

ベンはますます機嫌が悪くなり、ボコをポカポカと殴る。
彼は本気なわけだが、眠気にやられているのもあって、そんなに痛くない。

「ご、ごめんって…」
「ふんっ、いーよーだ!もしこれが正夢になってビルがハット卿を止めても、僕は絶対止めてあげないんだからっ!!」
「そんな悲しいこと言わないでくれよ」

とうとうベンは頬っぺたを風船のように膨らまして、そっぽを向いてしまった。

暫く許してくれそうにない。

「ベーン、お願いだからこっちを向いてよ…」
「やだぁ…」

参ったな、不機嫌にさせてしまったか…
しかし、いつも私がからかわれたり、ビルとの喧嘩で仲裁してもなかなか聞いてくれないことが殆どなのに、

なんだかんだ信頼されているんだな…

ボコはそんなベンが、なんだか愛おしくなった。
気まずい雰囲気でいつまで経っても口を開こうとしないベンに、溜め息をついたボコが話し始める。

「そうだな…誰しも出会いがあれば、いつかは別れの時もある。それが人間でも、機関車でも…」

突然意味深なことを言い出すボコが気になったのか、ベンがやっとこっちを向いた。

「ボコ?」
「でも友達だから、またすぐにでもきっと会えるさ。それに、ハット卿は私たちをそう簡単に切り捨てるような人じゃないだろ?」
「…そうだけど、信じてもいいの?それ」
 
ベンは不安そうな声で尋ねた。
 
「勿論だとも。寧ろ、うんざりするくらい会えるんじゃないのかい?君は信じてくれるだろ?」
 
静かにうなずくベンを見て、ボコもニッコリ笑った。

「機嫌治ったかい?」
「うん、少しだけ…」
「それならよかった」
「…さっきは殴ったりしてごめんなさい」
「私の方こそ、笑ってすまなかった」

仲直りしたところで、ベンがもう少しだけボコに寄り掛かってきた。

「…ねぇ…ボコ」
「なんだい?」
「その…ボコと一緒に寝てもいい?…これからも、離れないように」
「随分子供みたいなことを言うんだね。別に私は構わないけど」

ボコはベンが入れるようにスペースを作ってあげた。どうやらボコ自身も満更ではないよう。

「ビルには内緒だからね?」
「わかってるって。でも彼にバレないように早起きしないとな?」
「もう〜!またそうやって意地悪するんだら!」

ボコの一言でベンは再び不貞腐れて布団に潜り込んだ。

「(ボコのバカ…)」

けれど、心のどこかでほっとしたのか、ビルはそのまま深い眠りについた。

やれやれ、どっちが年上なんだか…

「…本当に笑ってしまうよ。特に、君の冗談にはね…」

ボコは寂しげに笑い、ベンのフワフワな蜂蜜色の髪を優しく撫でると同時に眼を閉じた。
 

おやすみなさい。
良い夢を。

end

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