似た者同士
ある日のアノファ採石場。
ただでさえ現場は騒々しいのに、双子のビルとベンは貨車の取り合いで喧嘩をしていたので、更に賑やかになっていた。
「あの貨車は僕のだぞ!」
「いーや、僕のだ!!」
「違う!」
「ふたりとも、喧嘩はそのくらいにして、仲良く貨車を分け合ったらどうだい?」
ボコがふたりの仲裁に入ったが、まるで意味が無い。
とうとうふたりはお互いガシャンと大きな音を立ててぶつかり、脱線してしまった。
「ついでにタンコブもね?」
呆れ返ったボコも皮肉っぽく言う。
仕事の量も増え続け、双子もこの調子。
トップハム・ハット卿は急いで新しい機関車を一台手伝いとして呼んだ。
***
次の日、待ちに待った新しいディーゼルがやってきた。
名前はデリック。
緑と黄色のボディーに、ボコと同じ国章が入っていた。
しかし、ゴードンの丘の途中、初仕事のプレッシャーで車輪が絡まり、黒い煙を吹き上げて、ついに立ち往生してしまったのだ。
その知らせを聞いたボコは、デリックを救助しに駆けつけた。
「大丈夫かい?」
「悪いね。初めての仕事だから、つい緊張しちゃって…」
***
次の朝。元気を取り戻したデリックは、ビルとベンの助っ人として採石場に向かう。
軽快に警笛を鳴らしてデリックはふたりに挨拶をした。
でも、双子はディーゼル機関車に対して少々警戒気味。
「これは面白そう!」
やる気満々で早速仕事に取り掛かるデリックなわけだが、丘を走っている最中、ふたりからマウントを掛けられて案の定トラブルが起きてしまったのだ。
「しまった、またオーバーヒートだ…」
デリックはしょんぼりと双子たちに引っ張られて貨車と一緒に修理工場へと運ばれていった。
***
修理されている間、デリックはひとり憂鬱だった。
彼の頭の中では、明日は失敗せず、上手くいくのだろうか。
もしまたオーバーヒートなんてしたら、今度こそ送り返されるに違いない。
それどころかー…
デリックはそれ以上何も考えたくなくてギュッと目を瞑った。
***
夜になり、やっとデリックは修理されたが、気分は優れず落ち込んでいた。
工場からヨロヨロと出てくると、ゲートにディーゼル機関車が一台。
辺りは暗くて一瞬誰だかはっきりしないが、ライトの灯でボコだとわかり、デリックは少し嬉しくなるも、彼を心配した。
「あれ、ボコじゃないか。どうしたんだい?ひょっとして、君もどこか故障したの?」
「いや、君を待っていたんだよ、デリック。君のことが気になってね」
ボコが話をしようとした時、工場から騒音がしてきた。これでは話どころではない。
「ここだと騒がしいから別の場所へ移動しよう」
ボコはデリックを静かな場所へ連れて行った。
涼しい風がちょうど良く気持ちがいい。
デリックは深呼吸して落ち着いたところで、助けてもらったお礼をする。
「ボコ、助けてくれてありがとう。本当に君には助けてもらってばかりだね…」
「いいんだよデリック。助け合うのはお互い様だからね」
「はぁ…、きっとあの黄色い双子に嫌われたかもしれないな…」
デリックは深い溜息をついた。
「ふたりのことは気にするなよ。それにディーゼル機関車を未だに慣れていないせいもあるからさ」
ボコもデリックを励ます。
「…僕はしょっちゅう故障しちゃうから自分自身が嫌なんだ。役に立ちたいのに…何のためにこの島に来たのか、分からなくなる」
震える声でボコに悩みを打ち明けたデリックの目には、涙が浮かんでいた。
「…その気持ち、わかるよ」
「え?」
「実は私も君と同じように、周りのディーゼル達よりも、体が決してそんなに強いわけではないんだ」
「そうなの?」
「私がまだメインランドで働いていた頃は、初仕事でなくても、体が思うように動かなくてね。仲間や運転士からたくさん罵倒を受けていんだ…」
「でも、ボコは故障せず、あんなに仕事をちゃんとこなしているじゃないか。それに双子達を指示通りに動かしているし…」
ボコはおかしくて思わず、フフっと笑ってしまった。
ビルとベンにも当時からかわれたけど、あのふたりに関しては、長年の経験で "ちょっとしたコツ" を見つけただけ。
「けれど案外そうでもなくてね…」
「何があったの?」
デリックはうっかりデリケートな事を聞くべきではなかったと後悔しているが、しかしボコは迷わず話してくれた。
「恥ずかしい話。ある時、貨車の入れ替え作業をしていたんだけど、転車台から落ちてしまったこともあってさ…」
「え!?だ、大丈夫だったの…?」
「まぁ、あの頃は正直大変だったね」
デリックは驚きを隠せなかった。
この島に来る前からボコは自分よりも優秀だと聞いていたから。
デリックはただ静かにボコの過去の話を聞いて、ボコは昔のことを思い出しては空を見上げた。
「今でも体が疼くことはあるけれど、仕事に支障が出ないように極力休んでいる。私の故障の話を聞かないのは、その事を誰にも言わないだけであって…」
「……」
「本当は弱いんだ…」
同じメインランド出身で、あまり体の強くない緑色のディーゼル機関車。
デリックはそっとつぶやいた。
「僕ら、なんだか似ているね…」
「ははっ…!確かに、違いないな!」
「僕は…、ボコみたいに役に立てるよね?」
「私みたいに?……あぁ、勿論だとも」
「そっか。ありがとう、ボコ。君のお陰で明日からまた頑張れるような気がする…」
「こちらこそ、どういたしまして」
ボコはデリックにクシャッと微笑み、別れを告げた。
大丈夫。
きっと君ならやり遂げるさ。
君だって、役に立つきかんしゃだからね。
end